憲法9条を改正し、新たに自衛隊の存在を明記するいわゆる「自衛隊明記」をめぐり、自衛隊違憲論に注目が集まっています。
自衛隊違憲論というのは、自衛隊の存在そのものが憲法違反である・憲法9条に違反しているとする、憲法学者による主張です。
2015年の朝日新聞の調査では、6割以上の憲法学者が自衛隊を違憲としています。
現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたると考えますか。
①憲法違反にあたる…50人
②憲法違反の可能性がある…27人
③憲法違反にはあたらない可能性がある…13人
④憲法違反にはあたらない…28人
⑤無回答…4人
朝日新聞の憲法学者アンケート質問4の結果(2015年6月実施、朝日デジタル)
このように、「憲法違反にあたらない」と言い切る学者は122人中28人しかいないということになります。ので、ほとんどの学者が「自衛隊は憲法違反」との見方をしていることが分かります。
では、なぜ憲法違反とする学者がこんなにおおいのでしょうか。また、なぜ憲法学者は自衛隊を違憲とするのでしょうか。
では、それらを詳しくみていくことにしましょう。
自衛隊違憲論は至ってシンプル
まず、憲法9条を掲げておきましょう。
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
自衛隊を憲法違反(違憲)とする学者の主張は、意外にも非常にシンプルです。
というのも、上記憲法第9条の第二項、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」の「陸海空軍その他の戦力」に自衛隊が該当するから違憲だ、ということなのです。
ただそれだけだといえます。
たしかにこれを読めば小学生でも「これって自衛隊、アウトなんじゃないの?」と思うに違いありません。
素直に読めば素直に読むほどに、そう思うでしょう。
憲法学者もこの部分を素直に解釈している、ということで、それ以上に何か複雑な読み方があるわけではないのです。
といいますか、むしろ、自衛隊は合憲であるとする側、「自衛隊合憲論」の側の方が、実は若干複雑な読み方をしているのです。
では次に、自衛隊合憲論の解釈を見てみましょう。
ちょっと複雑な自衛隊合憲論
自衛隊合憲論が自衛隊を合憲とする考え方は、上記で見た9条第二項の「陸海空軍その他の戦力」に自衛隊は該当しない、というのではなく、やっぱりこちらも基本的には「該当する」「9条には違反している」という見方をします。
ですが、そこから先がまだあります。
ここで以下の憲法13条が登場することになります。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
自衛隊合憲論の見方としては、この13条では、外国による武力攻撃から全ての国民は生命、自由及び幸福追求の権利が尊重されることになっているから、国民を守るための実力組織として存在している自衛隊は憲法違反ではない、と読むのです。
つまり、憲法9条には違反してるかもしれないけれど、13条が例外的に自衛隊の存在を認めているという解釈から、自衛隊は憲法違反ではない、と解釈するわけです。
ちなみに、これが政府の自衛隊を合憲とする解釈でもあります。
以上が自衛隊を違憲とする側と合憲とする側の憲法解釈の簡単な対比になります。
まとめ
以上のように、自衛隊を違憲とする憲法学者が6割以上にものぼる理由としては、以下の二つの見方
1)自衛隊は9条2項に違反している
2)しかし、13条が自衛隊の存在を例外的に認めている
このうち、どちらにどれだけウェイトを置いた解釈をするか、という判断で、1)にウェイトを置く憲法学者が多いから、ということになります。
これを上で引用した、朝日新聞のアンケートの選択肢に当てはめると、概ね以下のように読むことができるでしょう。
①憲法違反にあたる【1)に全ウェイトを置いた解釈】…50人
②憲法違反の可能性がある【1)を重視する解釈】…27人
③憲法違反にはあたらない可能性がある【1)を重視するも2)の可能性も考慮した解釈】…13人
④憲法違反にはあたらない【2)に全ウェイトを置いた解釈】…28人
このように、13条を持ち出して自衛隊を肯定する解釈が、憲法9条2項を素直に読んだ解釈に圧倒的に負けているからなのです。
あなたはどう感じるでしょうか? 9条改正を考えるにあたって参考になれば幸いです。
コメント
非常に参考になります。
日本国憲法は、国会議員の2/3、国民の1/2以上の賛成で、
改訂できます。が、そんなことしなくても、戦争に負ければ、
憲法などコロリと変わります。敗戦で、コロリと変わる憲法で
戦争に関係するような法律を、「合憲だ」、「違憲だ」と言う
事自体、全く意味がないと私は、思います。
「自衛隊が、合憲、違憲」などと言うことは、憲法学者(と称する
者)の「飯の素」(それだけでご飯がたべられる。)でしょう。
自衛隊は、合憲、違憲で、議論すべきではなく、自衛隊は、
必要か、不必要か、で議論すべきです。
憲法や法律の範疇は、せいぜい「不倫、離婚」ぐらいです。
戦争はその範疇ではありません。
戦争になったら、「勝てば官軍、負ければ賊軍」しかありません。
この前の戦争で、もし、ドイツが勝利(ドイツ、日本は、やはり、
国土、資源等で結局、負けてしまう。)していれば今頃は、
神様、仏様、キリスト様、ヒットラー様でしょう。
だから、水戸黄門は、三つ葉葵の印籠だけなく、助さん、格さん
なる、最強の軍事力(戦争に負けない)も、持っているのです。
芦田修正の話を加筆しましょう。
「前項(2項)の目的を達するために」という制約が入っているため、自衛のための実力は持てるのです。
自衛隊が違憲なのではなく、能力や装備が違憲なのではないかだと思います。
敵基地先制攻撃能力、攻撃型空母、フルスペックの集団的自衛権など、自国の守るための「最低限度」の範囲に収まるかどうかの論争が絶えないのです。自衛隊の存在を違憲とする論争は今や下火だと思います。